11月26日(火)、兵庫県立大学社会価値創造機構主催、はりま新産業創出エコシステムの共催で「新事業創出のための人材育成シリーズセミナー(第2回)」が開催されました。
コアコンピタンスを新ビジネスへ
本シリーズセミナーは、内閣府「令和5年度地域中核大学イノベーション創出環境強化事業」の採択を受けて立ち上げた、兵庫県播磨地域の新産業創出を目指す「はりま新産業創出エコシステム」の活動の一環として行われているもので、兵庫県内の機関在籍者(企業・団体・研究機関・大学生)を対象に、「新事業創出を目指す人材育成体系の確立」を目指して実施しているトライアルコースです。一般的にいわれる『産学連携』に、行政と金融機関を加えた『産官学金』の形で、特に播磨地域を中心に兵庫県全域の産業を活性化させることと、スタートアップや企業の新事業の創出を担う人材を育成することを目的としています。さらに、参加者の方々が一歩前進するための後押しをし、セミナーの講師陣との関係構築を支援していくこととしています。
全5回・10講演の開催が予定されており、対面(会場:社会価値創造機構セミナールーム(兵庫県姫路市))とオンラインによるハイブリット開催とし、部分受講も可能で、回ごとに募集を行うなど、社会人の方も受講しやすい形式となっています。
なお、本記事では、11月26日(火)に行われた第2回(講演No.3、講演No.4)の様子をご紹介します。(対面とオンライン合わせて約50名参加)
はじめに、セミナーの開会に際して、社会価値創造機構の柴野伸之教授から開会の挨拶があり、本シリーズセミナーの概要等について説明がありました。
セミナー講演No.3「生成AIの可能性とその事業性」
続いて行われたセミナー講演No.3には、工学研究科の森本雅和准教授が登壇し、「生成AIの可能性とその事業性」と題して、近年の技術革新により多岐にわたる分野で応用が進んでいる生成AIの基礎から応用までの解説を行いました。
森本准教授は講演の前半で、様々な種類の生成AIについてや、OpenAIのChatGPTについてなど、具体的な例を交えながら紹介しました。その中で森本准教授は、こうした生成AIは半年単位で急速に進化しており、博士課程の大学院生並みの能力を持つものや、自分でビデオカメラを回して映像を撮影しなくても希望するものに近い映像を自動的に作成してくれるサービスなども始まっていることから、大学におけるプログラミング教育をはじめ、音声や音楽、画像などメディアコンテンツの制作の在り方に今後大きな変化をもたらすのではないかと指摘しました。
また、ChatGPT以外の生成AIとして大規模言語モデル(LLM)を取り上げ、OpenAIをはじめとしたGoogleやMicrosoftなどの海外の販売事業者が様々な大規模言語モデル(汎用LLM)を開発してサービス化しているのに対し、日本の企業は特定の用途や業務、あるいは日本語に特化するなど、用途を絞り込んだ特化型の生成AIのモデル・特化型LLMを開発していると紹介しました。さらに、特化型LLMは企業内にある計算サーバーで動かすことが可能であることや、最近はスマートフォンやパソコン内で動かすことが可能になっているものもあるとし、「生成AIを使用することによって機密情報が外部に漏れることを心配して、生成AIの使用を禁じている企業等もあるが、こうした特化型LLMであれば、情報漏洩の恐れがないということで、日本の企業は特化型LLMの開発を進めている」と森本准教授は国内における生成AIのビジネス活用について解説し、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の日本語に強い大規模言語モデル『Swallow』など、特化型LLMの具体的な例を紹介しました。
※大規模言語モデル(LLM:Large language Models)…膨大な量のテキストデータを学習することで、高度な言語を理解し、新たに文章を生成したりすることのできる人工知能の一種
さらに、森本准教授は生成AIのリスクについて、生成AIに入力した情報が生成AIの学習に利用されることなどによる「情報漏洩」をはじめ、「ハルシネーション(幻覚)による偽情報の生成」、「悪意のあるコンテンツの生成」、著作権者が自身の著作物をAIが学習することに対して許可していないものを勝手に学習に使われたり、生成物が他者の著作物に酷似するなどの「著作権侵害」、「生成AIへの過度な信頼・盲信」を挙げ、これらが日本の企業が生成AIの利用禁止を検討している要因になっていると指摘しました。一方で、「生成AIは存在しないものを勝手に捏造することもあり、そのあたりのファクトチェックは人間がしないといけないが、それでも人間がゼロからするよりは非常に効率化が進むので、時間削減になる」として、生産性の向上や業務改善のために生成AIを導入して成果を出している企業もあると紹介しました。
最後に森本准教授は「今ある生成AIで、少なくとも完璧なAIは1つも存在しない。少々のミスが許されるところ、人間が簡単にフォローできるところに生成AIを導入するなど、人間にしかできない部分との使い分けや、生成AIのメリット・デメリットを考えてやっていく必要があると思う。日々、生成AIによる新しいサービスがどんどん出てきている。今更使わないという選択肢はなく、多かれ少なかれ使わざるを得ない状況にある。ただ、やみくもに使うとリスクに引っかかってしまうので、ガイドラインをつくるなどして人間がフォローする仕組みづくりを考えて、生成AIの導入を進めていっていただきたいと思う」と述べました。
セミナー講演No.4「大規模シミュレーションとその事業性」
セミナー講演No.4には減災復興政策研究科長の永野康行教授が登壇し、「大規模シミュレーションとその事業性」と題して、民間の建設会社での建築物の構造設計実務経験や本学及び他大学での教育・研究の実践経験、理化学研究所客員主管研究員としての研究経験を踏まえ、各所における取組及び研究の具体的な内容とその成果、また、永野教授自身が考えた事柄や、学会及び国際会議で発表した事柄の紹介を交えながら、研究成果をいかに事業に結びつけていくのかについて講演しました。
講演の冒頭で永野教授は、「2014年度にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)に応募して採択されたのを契機に、『防災というものを、もう少し広域に考えてみる』という研究に着手し出した」と、転機となった時期を振り返りました。さらに、採択された際のJSTのコメントが印象深く残っているとし、「こうした研究は『地震が発生したら、どのような被害が起こるのか』というものが多いが、私の提案は『そこからどうするのか』、つまり、耐震性の確保に関するところに一歩踏み込んでいる部分が評価された」と紹介し、誰もしたことのない未着手の事柄に着眼して取り組んだJST受託研究『兵庫県内における耐震性の不足する建物抽出およびその耐震性の確保に関する調査研究』の内容について解説しました。
また、永野教授は2005年11月に国立研究開発法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターが所有する実大三次元震動破壊実験施設『E-ディフェンス』(兵庫県三木市)を使用して行われた、耐震補強効果を検証する木造住宅の倒壊実験の様子を撮影した映像を上映し、実験について解説しました。
実験には2棟の住宅が用いられ、1974年5月に兵庫県明石市に建てられた木造住宅2棟(旧耐震基準)と同じ構造仕様・間取りを再現したものが震動台上に建てられました。1棟のみ耐震補強(現行の新耐震基準)が施され、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の際にJR鷹取駅構内で観測された震度7の揺れを震動台で再現し、耐震補強していない住宅が倒壊するまで震動させるという実験が行われました。
永野教授は、「いわゆる『旧耐震』で建てられた建物は1回で倒壊する。阪神・淡路大震災の揺れは、現行の建築基準法の1.5倍ほど大きな揺れだった。何を言いたいかというと、建築基準法をギリギリで守っていると、実は壊れるということ。ある程度余力が必要で、法律が全てではない。地球は法律どおり動いてくれないので難しい」と指摘しました。
さらに、阪神・淡路大震災時には倒壊を免れたものの、耐震補強せずに放っておいたまま再度、阪神・淡路大震災クラスの地震が発生した場合にどうなるかを検証するために行われた実験についても言及し、「残念ながら阪神・淡路大震災クラスの地震2回は持たない。そのため、1回目の地震後にそのまま放っておくというのは非常に危険で、場合によっては調査をして、適切な手を打たないといけないかも知れないということが、この実験からは示唆される。例えば、木造住宅は壁の量で大体耐震性が決まる。建築基準法で定められている『1倍』では倒れてしまう。1.5倍程度入れておかないと持たない。一方で、壁を入れれば入れるほど強くなるが、コストが増える。こうした実験の結果は『どの程度まで壁を入れるのか』の意思決定に役立つのではないかと思っている」と見解を示しました。
その他、永野教授は、建設会社における建築物の構造設計実務者としての経験と、大学で教育・研究を実践する研究者としての経験の両方を有する立場から、研究成果の社会実装に向けての問題点についても言及しました。「研究者は、物事の本質を表現するために、表現しようとする部分を『モデル化』あるいは『理想化』する。理想化するがゆえになかなか実態にそぐわないところがある。実態でそれらを『表現する』のは技術者、つまり、現場の人だということで、研究の性質と実装するというのには大きな溝があり、現場ではそう簡単に使うことができない。例えば、建物には様々な部材があり、ある1つの部材にしても種類が多く、それぞれ長さも違うし数も多い。計算もその都度必要になる。しかし、研究者はもっとシンプルに問題を解いているので、その『理想化』に当てはまらないものに触れたらどうするかというところで、実はそこには触れないという側面がある。それらを解決するために建設会社時代に苦労した記憶がある」と述べました。
最後に、自身が持つ知識や技術、成果などの強みを生かして『耐震設計コンサル』『免震構造診断』という形でビジネスとして展開していく構想を持っているとして、免震構造診断については、すでに事業化に向けて進行していることを紹介し、「こうした取組は『研究者が1人で考えて、費用を考えて、それで以上』ということにはならず、合意形成が必要であり、その大切さというものも非常に実感している。また、このようなやりとりをする場に学生を連れて行き、生で体感させることも大学院の教育面で大切な部分の1つであると思っている」と話し、講演を結びました。
セミナー後には、受講者の方が講師を務めた教員と交流できる時間が設けられ、名刺交換や所属部局のパンフレットの配布などが行われました。
・兵庫県立大学社会価値創造機構
・工学部・大学院工学研究科
・research map 森本雅和
・減災復興政策研究科
・兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 永野研究室
本シリーズセミナーの参加申込や開催スケジュールなどの詳細については、下記のリンク先からご覧になれます。
・Event 新事業創出/人材育成シリーズセミナー(本学公式サイト)
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