1月16日(木)、姫路環境人間キャンパスにおいて、兵庫EU協会主催、公益財団法人兵庫県国際交流協会、駐日欧州連合代表部、兵庫県立大学共催、公益財団法人姫路市文化国際交流財団の協力で「令和6年度兵庫EUセミナー~EUのこれからと現在~」が開催されました。
兵庫県とEUの相互理解と交流を深めるために
本セミナーは、兵庫県と欧州連合(EU)が相互理解を深めることを目的に、また、駐日欧州連合代表部がEUの活動を若い世代に知ってもらうために実施している活動の一環として、公益財団法人兵庫県国際交流協会(HIA)内に事務局を置く兵庫EU協会が主体となって開催されたもので、駐日欧州連合代表部副代表のトーマス・ニョッキ公使を講師にお招きし、ご講演いただきました。
本学での開催は初めてで、髙坂誠学長と環境人間学部の高橋綾子教授がHIAの評議員を務めており、同協会と交流があったことから開催が実現しました。セミナーは、環境人間学部の1年生を対象に開講している専門基礎科目「人間分野総合講義」の授業時間を利用して行われ、約170名の学生が参加しました。
当日の様子
歓談
ニョッキ公使は、セミナー開始前に環境人間学部の吉村美紀学部長を訪問され、高橋教授やHIAの城友美子理事長、横川太専務理事をはじめとした関係者と歓談されました。歓談の場では和やかな雰囲気の中、城理事長や吉村学部長からニョッキ公使に姫路の観光スポットや、姫路環境人間キャンパス内にある講堂やゆりの木会館(ともに国の登録有形文化財(建造物)指定)の建物を紹介するなどしていました。
また、ニョッキ公使から環境人間学部への贈り物として、EUの旗と日本の国旗をモチーフにした「だるま」の置物が吉村学部長に手渡されました。
セミナー
セミナーでは、はじめに城理事長から挨拶がありました。城理事長は「この兵庫EUセミナーは、兵庫県とEUの交流等を深めることを目的に、兵庫EU協会の会員の方に向けて毎年実施しているもので、今年は少しスタイルを変えて、今後日本から世界に羽ばたいていく若い方にEUについて知っていただきたいと考え、この場を設けさせていただいた」とセミナーの開催趣旨を紹介され、「みなさんもご承知のように、国際社会は今、非常に難しい問題が山積みの状況になっている。そのような中で、EUはこれまでに各国の協力を集結させて果敢に様々な取組を実践されてきており、環境についても先進的な取組をされている。本日は、こうした様々な示唆に富んだお話をお聞きし、私たちもぜひいろいろと考えを深めていきたいと思っている」と話されました。
続いて、吉村学部長が挨拶し、「本学ではグローバル教育に力を入れている。学生が国際的な視野を広げていくということで、多様な取組を始めている。その一環として、昨年度からルーマニアのブカレスト経済大学に兵庫県立大学ルーマニアオフィスを開設している。こちらを中心に、欧州との学術・学生交流を推進している。また、環境人間学部では人間学を基軸として、文理融合教育を基礎に、人と環境が共生する社会の実現を目指して今日のようなSDGsの理念に共鳴する研究と教育を行っている」と本学及び環境人間学部の取組を紹介し、「本日のニョッキ公使のご講演を通じて、SDGsにおける国際協力の重要性や地域社会での具体的な行動について多くの示唆を得られることを期待している。ニョッキ公使がご多忙な中、本学にお越しいただいたことに深く感謝申し上げる。本日のご講演が世界・地域につながる大学としての貢献と一層の発展につながることを祈念している」と述べました。
その後、ニョッキ公使にご登壇いただき、「EUの現在とこれから」をテーマに、EUの成り立ちと概要、EUの気候変動対策に関する政策についてと、開催が近づいている大阪・関西万博への参加についてお話しいただきました。なお、ニョッキ公使による講演は英語で行われたため、講演者が一定の長さを発言したあとに通訳者が日本語に翻訳する逐次通訳のスタイルで講演が進められました。
駐日欧州連合代表部 戸出通訳
講演の中でニョッキ公使は、「EUは、他にはないような非常にユニークな経済と政治の連合体で、ヨーロッパの国々が集団となり、ともに力を合わせて安定・平和・繁栄を確保する組織である」と紹介し、EUの特徴として、共通の通貨(ユーロ:2024年現在、EU加盟国中20か国で利用)があることと、EU域内では出入国においてほとんどの国でパスポート(旅券)を必要としないことの2点を挙げられました。
また、EUのモットーは『多様性の中の統合(United in diversity)』であると紹介され、「これは、EUが欧州統合を進める中で、あるいは、他国との外交の中で促進しよう努めている価値である。日本も全く同じ価値を共有しており、だからこそ日本はEUにとって非常に重要なパートナーとなっている。現在、EUの27か国は、それぞれ異なる文化や歴史、政治体制があり、そうした意味ではバラバラではあるが、一体となって連携しているということを表しているのが、このEUのモットーである」と説明されました。
※EU域内の移動の自由…2025年1月時点で、EU加盟国27か国中、アイルランドとキプロスを除く25か国および非加盟国4か国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)の計29か国は、シェンゲン協定の下、域内の国境審査の廃止に合意している。」
EUの気候変動対策に関する政策については、「気候変動の一番の原因は温室効果ガスの増加であり、それに対して一番対策を講じないといけないが、日本と同様にEUも『2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする』目標を掲げている」と話され、EUにおける具体的な気候政策として、温室効果ガスの排出量に価格を付与して取引を行うEU-ETS(EU域内排出権取引制度)をはじめとした様々な取組をされていることを紹介されました。
また、EUだけが排出量を削減しても地球温暖化の問題解決にはつながらないと指摘され、「EU全体で世界の温室効果ガス排出量の約7~8%を占めているが、世界全体のごく一部であり、EUだけで排出量削減に向けて取り組むのでは充分でない。そのため、EUが他の国と取引をする、何かを輸入する際に『その商品が排出している炭素の量を考慮する』という炭素国境調整メカニズムと呼ばれる仕組みがある」と説明されました。
加えて、EUでは『カーボンニュートラル』ではなく、『気候中立』という言葉が採用されているとし、「炭素以外のものも温暖化に影響を与えているので、私たちは2050年の最終目標に『気候中立を実現する』というものを掲げ、その段階で、あらゆる活動において気候に与える影響が何もない、『ゼロになる』ことを最終の目標にしている」と話されました。
最後にニョッキ公使は、2021年5月にEUと日本の間で締結された「日EUグリーン・アライアンス」について取り上げられ、「気候変動対策の分野でも日本はEUにとって非常に重要なパートナーである。そのために日本とEUの間には、グリーン・アライアンスという協定が結ばれている。現在は他国とも締結しているが、この協定を結ぶのは日本が初めてだった。どのような政策が効果を挙げているのか否かといった双方の経験から学び合い、情報を共有することが、日本とEUのパートナーシップの中で非常に重要な部分を占めている」と話されました。
講演中には、ニョッキ公使から学生に向けてクイズを出されたり、また、質疑応答の場も設けられ、学生から日本語または英語でニョッキ公使に質問がなされ、ニョッキ公使から質問に対してひとつひとつ丁寧にお答えいただきました。
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