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JSAI2025(2025年度人工知能学会全国大会)万博関連企画 「中高等学校におけるAI教育・DS教育の現状と今後の展開」開催

5月27日(火)から5月30日(金)の4日間にわたり、大阪府立国際会議場(大阪市北区)とオンラインのハイブリット形式により一般社団法人人工知能学会(JSAI)の主催で行われた「JSAI2025(The 39th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence)」(2025年度人工知能学会全国大会(第39回))において、大会2日目の5月28日(水)に本学の社会情報科学部・情報科学研究科の笹嶋宗彦教授が座長を務める万博関連企画「中高等学校におけるAI教育・DS教育の現状と今後の展開」が行われました。

 

JSAI2025は、人工知能学会が主催する日本最大級のAI学術イベントで、研究者・企業関係者・学生など4,939名(現地4,032名、遠隔907名)が参加しました。その中で、同大会では、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)におけるテーマウィークと連携した「万博関連セッション」が設けられ、JSAI2025や2025年大阪・関西万博への参加申込をしていない一般来場者も無料で参加することのできる招待講演2件と万博関連企画6件の合計8件の企画が実施されました。
このうち、笹嶋教授と本学の情報科学研究科博士後期課程の大学院生でもある雲雀丘学園中学校・高等学校情報科・数学科・探究科の林宏樹教諭が万博関連企画の1つとして、「中高等学校におけるAI教育・DS教育の現状と今後の展開」を主催しました。
※テーマウィーク(2025年大阪・関西万博)…世界中の国々が地球的規模の課題の解決に向け、対話によって「いのち輝く未来社会」を世界とともに創造することを目的として行う取組。万博の会場外において、テーマウィークの会場外関連プログラム「テーマウィークコネクト」として各種取組が行われており、大阪・関西エリアに限定せず、全国から参加可能となっている。

 

中高生向けのAI教育・DS教育はどのようにあるべきなのかを考える

近年、少子高齢化が進む我が国において、数理・データサイエンス・AIに関する教育の重要性が高まりを見せており、AI時代にふさわしい人材の育成や女性の理系分野への参画促進などの課題が社会全体で共有されつつある中で、中学校・高等学校においても探究活動や課題研究が活発に行われるようになってきています。特に、AIと共生する社会を生きる今の若者たちにとっては、AIやその基盤となる数理・データサイエンスについて、どのような教育が行われるのか、また、それらをどのように学ぶべきなのかということが重要であり、大きな課題になっています。

 

一方で、中学校・高等学校の現場の教員の多くは、AI教育やDS教育を中高生時代に受けておらず、また、これらの教育に関する知見が浅いという現状があることから、林教諭は全国各地のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)でデータサイエンスをもとに授業を行っている高校教員同士で指導方法を共有し学び合う場として、2020年にJDSSPを立ち上げました。その流れの中で、次世代を担う人材の育成に資することを目的に中高生を対象とした「AI・数理・データサイエンス」に関する探究学習・課題研究の発表の場となるコンペティションを企画、中高生がAI・データサイエンスに対する理解を深め、自ら課題を設定し解決に取り組む力を養うことを目指し、人工知能学会と日本統計学会の支援を受けて、2023年度から本学との共催で「全国中高生AI・DS探究コンペティション」を開催しています。

2023年度に開催した「全国中高生AI・DS探究コンペティション2023」の様子

 

2回目の開催となる今年度は、この万博関連企画「中高等学校におけるAI教育・DS教育の現状と今後の展開」が行われた3日前の5月25日(日)に、同コンペティションの最終審査会がJSAI2025と同じ会場で行われ、一次審査を通過した6組の高校生がプレゼンテーションによる最終審査に臨みました。
本万博関連企画では、中高生向けのAI教育はどのようにあるべきかを考える機会とすることを目的に、今年度の同コンペティションにおいて各賞を受賞した高校生による作品内容の発表や、パネルディスカッションが行われました。

 

当日の様子

はじめに、本万博関連企画の座長である笹嶋教授から、企画の趣旨説明がありました。

 

【人工知能学会・日本統計学会公認】全国中高生AI・DS探究コンペティション2025の実施報告と展望

次に、林教諭から「全国中高生AI・DS探究コンペティション2025の実施報告と展望」と題して、JDSSPの概要や取組、同コンペティションについて説明がありました。その中で林教諭は、同コンペティションの一次審査における2つの観点「AIやデータの利活用の観点」「創造性の観点」について言及し、「私たち高等学校の教員も入りながら、高校生にどこまでのレベルの研究が可能かということも踏まえて、評価の観点について検討を行った。まず、『問題発見』のフェーズと、『問題解決』のフェーズがあると考えている。高等学校の生徒たちは、意外にここのところの切り分けができていない現状があり、生徒たちに自由に研究をさせると、ぼんやりした研究になっていくことがある。その理由は、『どこまでが課題としてしっかり提示されているか』、そして、『それに対する解決策は何か』という区別ができていないからである。そのため評価項目として、問題の発見に対して、どのようなアプローチや根拠を持っているのか。そして、それらに対してどのような解決策を考え、それらを実行できているのかという部分を一次審査の基準にしている」と紹介しました。

また、同コンペティションの今後の展望について、「最終的には47都道府県の中学校・高等学校の生徒に参加していただける大会にしたいと思っている。また、来年度に実施する次回大会は『日本人工知能カップ AIカップ2026』として、人工知能学会の企画委員会と連携して開催することとしており、全国中高生AI・DS探究コンペティションは『AI・DS探究部門』という名称に変えて継続して行い、さらに追加で『アルゴリズム部門(仮称)』をつくり、2つの部門で実施する予定になっている」とし、「探究活動において、高校生はさまざまな分析手法を用いて研究をしているが、分析手法を正しく使えていない高校生もいる。そうした高校生のためにも、大学教員などの専門家が正しい使い方を示す動画教材による指導、あるいは対面で高校生に助言する場面をつくりたいと考えている」と述べました。

 

高校生による探究成果発表

続いて、全国中高生AI・DS探究コンペティション2025の優秀作品の中から、5組の高校生がオンラインまたは会場で研究内容を発表しました。

国際基督教大学高等学校 小野寺莉紗さん・高篠美咲さん「空き教室を活用した効率的な自習環境について」

 

国際基督教大学高等学校 曽根菜々美さん・中里実乃理さん・西野真彩さん・中野綾音さん「AI or Not?」

 

群馬県立前橋高等学校 町田大河さん・吉澤莉維也さん「自転車転倒防止ハンドルアシスト「かごの加護」~人が乗った状態で防止するシステム搭載の自転車開発~」

 

神戸大学附属中等教育学校 遠藤杏さん「旅好き10代が教える、あなたの知らない神戸の歩き方-パーソナライズ型おすすめスポットリコメンドシステムの構築-」

 

神戸大学附属中等教育学校 宮岡怜光さん「台風の弱体化を目的とした氷投下地点の最適化」

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、笹嶋教授の司会のもと、現在の中学校・高等学校の教育現場での生成AIの利用や、AI教育・DS教育の実状等に関する討論が行われました。パネリストには、林教諭、神戸大学附属中等教育学校数学科の林兵馬教諭、滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターの大里隆也特任准教授と、神戸大学附属中等教育学校6年生の遠藤さんと宮岡さんが登壇しました。

 

教育現場での生成AIの利用について

全国中高生AI・DS探究コンペティション2025の大会実行委員長及び審査委員長を務めた笹嶋教授は、応募作品について、全般的に生成AIを利用して取り組まれた研究が多く見受けられたと指摘し、昨今の教育現場における生成AIの利用の現状について、パネリストの方々に問いを投げかけました。それに対し、高等学校での取り組み方については、「生成AIが導き出した答えには間違いがあることを前提に考え、生成AIを利用する際には直接答えを聞くようなプロンプトは入力せずに、複数の提案を問うようなプロンプトを入力し、その後出てきた解答の選択や扱い方は自分たちで判断するように指導している」「頭の中で『こうしたい、ああしたい』と考えていることが言語化できないときなどに、それらをどのように収束させていくのかの解決方法を探るために、生成AIを利用するよう指導している」といった紹介がありました。遠藤さんと宮岡さんは「どの授業でも高頻度でChatGPTを使用する場面があるが、自身の学習ツールの1つとして、あるいは、答えを導くための方法を調べて参考にするために利用している」と自身の現状について述べました。さらに、今年4月からOpenAI社が提供するChatGPT Education(ChatGPT Edu)を導入し、データサイエンス学部・研究科の学生であれば有料版を自由に使うことができるようになっている滋賀大学での取組について、大里特任准教授は「教員側も学生がChatGPT Eduを使用することを前提とした課題を出すなどしている。『教育現場で生成AIが使われることが当たり前』ということが、今後より一層強くなってくると思われるので、われわれは率先してそれに慣れていく必要があると考えている」と説明しました。

 

きちんと向き合える研究テーマに出会えるかどうか

また、中学校・高等学校で行われている探究活動や課題研究について遠藤さんと宮岡さんは、「課題研究を始めた頃は、探究の重要性や自分の将来像もあまりイメージできていない段階で『探究活動をしなさい』と言われても、何について研究すれば良いのかも分からなかった。自分が本当に課題研究をするとなったときに、きちんと向き合えるものに出会えるか出会えないかということは、とても大事なのではないかと感じている」「探究活動のおかげでやりたいことが見え、高校卒業後の進路を決めることができた」とコメントし、それに対して笹嶋教授は、「私自身も今の研究分野の道に進もうと決めたのはだいぶ遅かった。それが今は中学校や高等学校の段階で取り組むことになる。まずは、テーマ自体が面白いかどうかということと、そのテーマの研究の進め方が分かるかどうかが大きいのではないか。一方で、高校教員は各科目とその教育のプロではあるが、探究活動のプロの方というのは実はほとんどおられない。教員側からしたら研究経験もないのに『研究の仕方を指導しろ』と言われているようなもの。その状況の中で探究活動をする生徒側からしたら、運よく良いテーマに当たれば頑張れると思うが、テーマも面白くなく、研究方法も教えてもらえず、『どうしてこのデータを取らないといけないのか』となると厳しい。それは大学も一緒で、大学生でも卒業研究にしっかりのめり込んでくれる学生と、そうでない学生はそういうところで分かれているように思う」と述べました。

 

来場者の方々からもパネリストに向けて質問やコメントが寄せられ、活発な意見交換の場となりました。
最後に笹嶋教授は、「私たちが高校生だった頃は『このぐらいの偏差値だから、ここの大学・学科に行きなさい』といった指導がされていたが、そういう指導はもう通用しない世の中になってきていると思う。また、高大連携についても、より一層質を変えていかないといけないステージに来ているという実感がある。今日のこのセッションが参加いただいたみなさまに何か有益な情報になれば幸いに思う」と述べ、セッションを締めくくりました。

 

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