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情報科学研究科 土居准教授が第39回「村尾育英会学術賞」を受賞されました

令和4年3月5日、一般財団法人村尾育英会による「村尾育英会学術賞」の贈呈式が神戸市内で行われ、本学大学院情報科学研究科の土居 秀幸准教授が受賞されました。

「村尾育英学術賞」は、人文・社会・自然科学分野に関する「神戸ないし兵庫にゆかりのある研究」又は「兵庫県内の研究機関に所属する研究者の研究」を対象に、その業績が各界の発展に寄与することが顕著なものに贈られる賞です。

土居准教授が選ばれたのは、安定同位体分析と環境DNAを用いた水域生態系の生物群集や生態系動態等の先進的研究業績を高く評価されたものです。

そこで、土居先生にお話を伺いました。

 

受賞にあたって

― 村尾育英会学術賞の受賞、おめでとうございます。選ばれたとお聞きになって、どんなことを思われましたか。 ―

大変光栄に思いました。39回という歴史ある賞をいただき感無量でした。

 

― 3月5日の贈呈式には、出席した太田学長からも祝辞がありましたが、いかがでしたか。 ― 

太田学長から身に余るご祝辞をいただきました。太田学長には私の研究について、とても詳しく知っていただいており、ご祝辞の中で研究内容などをとても分かりやすくお話いただいたので、その後の私の挨拶でお話することが半分無くなってしまうほどでした。

 

受賞理由となった業績について

― 受賞理由となった業績についてお伺いします。安定同位体手法という言葉が出てきますが、安定同位体とはどんな物質で、それを使うとどんなことが分かるのですか。 ―

安定同位体とは、天然に存在する同位元素のことで、例えば、窒素であれば、重い同位体(窒素15)と軽い同位体(窒素14)があります。その重い同位体(窒素15)の割合は、捕食者の方が高くなることが知られており、それを利用することで「食う-食われる」関係を詳細に解析できます。人の体を構成する炭素や窒素にも、同様に重い同位体と軽い同位体が存在し、食べ物によってその比率が変わるので、髪の毛などを調べるとその人が食べているものを推定することができます。

 

― 髪の毛からでも食べているものが分かってしまうんですか。

では、安定同位体手法を実際に使って、どのような調査研究をされたのですか。 ―

安定同位体手法を用いて、海洋から湖沼・河川まで様々な水域において、食物網構造に関する研究を行ってきました。安定同位体を用いた研究の中でも、最も重要な業績と考えているものは、食物連鎖の長さ(食物連鎖長)の決定要因について明らかにしたことです。食物連鎖長の決定要因について、これまでの基礎生産や生態系の大きさが重要であるという理論を証明するとともに、新たに生態系の歴史性(生態系の古さ、生態系に生物が侵入する順番)が重要であることを示しました。

環境DNA調査地:瀬戸内海

― 生態系の歴史を探ることができるような研究だったのですね。もう一つの環境DNA手法についても、理科の時間に習った覚えが無いのですが、環境DNAとはどのようなもので、それを使うとどんなことが分かるのですか。 ―

環境DNAとは、水中に存在する生物(魚、無脊椎動物など)や微生物のDNAのことです。水中には大量に生物由来のDNAが存在していることが近年分かってきました。例えば、皆さんの入られたお風呂の水には皆さんのDNAが大量に存在しています。そのDNAを採集して、最近では新型コロナの検査で多く用いられている定量PCRなどを用いて分析することで、どんな生物のDNAがそこにあるかを調べることができます。その生物のDNAがあるということは、そこにその生物(例えば、コイなどの魚)が生息しているということが考えられます。

環境DNA調査地:東広島市のため池

 

― お風呂の水に、私のDNAが溶け出しているとは…。

では、環境DNA手法を実際に使って、どのような調査研究をされたのですか。 ―

魚だけでなく、昆虫や水草、サンショウウオなど、さまざまな生物種を調べることができることを明らかにしました。

また、大量にDNAを読む超並列シークエンサを用いることで、環境DNAから多くの魚や昆虫などを網羅的に明らかにできる方法を開発しました。

環境DNA分析:採水してきたため池などの水の濾過風景

 

― 安定同位体手法、環境DNA手法とも、水域生態系の生物群やその動態などを知ることができる優れた手法ということが分かりましたが、それを実施するのはハードルが高くて初心者には難しいでしょうか。 ―

いえ、そんなことはありません。安定同位体については業者で測定してくれるところがあります。環境DNAについては、水を汲んでDNAを保存するところまではすでに市民調査でも活用されています。

また、最近では現場で分析できる手法を提案して、市民活動などで簡単に測定できる手法を開発しつつあります。

 

― 先生はその普及にもご尽力されたんですね。

土居先生の今後のご研究やご活動について、思い描いておられることをお聞かせください。 ― 

近年では、地球規模での生態系の劣化が懸念されています。

また、持続的開発目標(SDGs)の達成にも健全な生態系を保全することが重要になっています。

しかし、その生態系の健全性などの評価には大規模かつ詳細な生態系の把握が必要です。今後は、これらの安定同位体や環境DNAなどの調査手法を用いて、大規模な生態系の調査ができるようにしていきたいと思っています。

 

― お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。ますますのご活躍をお祈りしています。 ―

 

 

 

 

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