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兵庫県立大学政策科学研究所シンポジウム 「メタネーションがある未来」が開催されました

6月16日(金)午後6時から、兵庫県民会館において、兵庫県立大学政策科学研究所主催、公益事業学会と兵庫県立大学水素エネルギー共同研究センターの共催で「兵庫県立大学政策科学研究所シンポジウム『メタネーションがある未来』」が開催され、会場とオンラインあわせて約150名の方が参加されました。

 

政策科学研究所では、昨年度からSDGsの実現に向けた取組として、温室効果ガス排出がゼロの社会すなわち「脱炭素社会の構築」を大きなテーマに掲げ、未来の社会に向けた課題解決に貢献すべく、実務家や研究者を登壇者として招き、一般の方々にもご参加いただけるシンポジウムを行っています。今年度1回目の開催となる今回は、「メタネーションがある未来」と題し、メタネーションの可能性を追及するシンポジウムとして開催されました。「メタネーション」とは、主に工場から二酸化炭素(CO₂)を回収して、水素(H₂)と合成し、天然ガスの主な成分であるメタンガス(CH₄)を生成する技術で、都市ガスの主成分であるメタンを人工的に合成する技術であることから、現在、都市ガスの脱炭素化技術の中で最も有望視されており、私たちの未来に大きな影響を与える技術になると考えられています。そして、この技術を用いてつくられるメタンは、「合成メタン(e-methane)」と呼ばれるようになってきました。その他、ガソリンや燃料なども人工的に合成燃料でつくるという研究も盛んになってきており、これらが実現すれば、消費者はこれまでの生活態様を維持しながら脱炭素を達成することができるようになると考えられています。本シンポジウムでは、これらの技術がどのようにして私たちの「脱炭素社会の柱」として成長していくのかについて、報告や議論が行われました。

 

はじめに、髙坂誠学長から開催校挨拶がありました。髙坂学長は、国際連合広報センターがメディアと共同で推進している気候キャンペーン「1.5℃の約束-いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を取り上げ、「『1.5℃の約束』を守れるのか守れないのかというと、守れないという議論が主流になっている。『それで良いのか』と、まさにこのシンポジウムではカーボンニュートラル世界、あるいはGX(グリーントランスフォーメーション)の世界といった新しい未来の在り方を垣間見るような議論や報告があるものと期待している」と述べました。

 

続いて、公益事業学会の水谷文俊会長から、このシンポジウムにより学会誌『公益事業研究』も充実することを願うこと、本学の水素エネルギー共同研究センター長の嶺重温工学研究科教授から、本学では水素に関わる研究が地道になされているということの説明とともに挨拶がありました。

 

第1部 講演

司会・進行の草薙真一副学長から、シンポジウムの趣旨説明と登壇者の紹介がありました。

 

基調講演

基調講演では、経済産業省資源エネルギー庁ガス市場整備室長の野田太一氏から「都市ガスのカーボンニュートラル化に向けたメタネーションの役割」と題して、日本の都市ガスのカーボンニュートラル政策の最新の議論内容についてご講演いただきました。講演の中で野田氏は、「日本企業が世界に先駆けて合成メタンの大規模製造技術を確立することで、世界そしてアジアの国々の脱炭素に貢献し、それらを日本の新しい産業の飯のタネにしていくことが日本のグリーントランスフォーメーション政策としてのメタネーションの意義である」ことや、「シームレスな追加的な対策費用なくしてカーボンニュートラルのソリューションを提供できるのが合成メタン(e-methane)ではないか。そして、日本企業が合成メタンの製造・供給といったものの機器の供給やエンジニアリングを含めて、アジアなど世界の国々に向けて提供できるようになっていることが日本のGX戦略である」と紹介されました。また、今年の2月から、都市ガスのカーボンニュートラル化に向けてどのようなルールや規制、支援が必要であるかについての議論を始められたことなども紹介されました。

 

講演

続いて、5名のパネリストの方々にご講演いただきました。

政策科学研究所の中村稔特任教授からは、「脱炭素社会に向けた視点~メタネーションのある未来に向けて~」と題した講演がありました。中村特任教授は「この脱炭素社会について考えるときに様々な視点があるが、1つは『なぜ、何のために、何をどのようにするのか』という戦略・戦術・方法論が始めから終わりまでトータルで上手くいっていないといけないということがある。もう1つは、エネルギー問題と非常にリンクしている国際情勢、そして、『時系列をどう考えるか』ということが挙げられる。様々な視点を持って、この問題を考えなければならない。そのためにはリテラシーの向上が必要で、本日のシンポジウムもそうだが、われわれ1人ひとりが知識を持って、この問題について考えることが大切である。まさに文系・理系の枠に捉われず、いろいろな分野で視点を融合していくことが大事で、リスクについて考えていくことも非常に重要なポイントである」と話しました。

 

東京ガス株式会社執行役員でグリーントランスフォーメーションカンパニー 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長の矢加部久孝氏からは、「ネットゼロの達成に向けた東京ガスの取組(e-methaneの社会実装)」と題してご講演いただきました。矢加部氏は、「東京ガスでは脱炭素化に向けて『電力分野・熱分野について、あらゆる限りの手を尽くして脱炭素化を進めていくこと』『レジリエンスの観点』『既存のインフラを最大限に活用しながら追加のインフラ投資のコストを抑制していくこと』の3つの視点から、e-methaneが最も有効なソリューションと考え、実装を進めている」と紹介されました。実現に向けて1番重要なこととしては、「いかに安価なグリーン水素を調達するのか」「再生可能エネルギーのコストが安いところでつくるという観点」の2点を挙げられ、安価なグリーン水素を製造するには、安価な再生可能エネルギーと低コストの水電解の技術が必要であることから、2年前から三菱商事、大阪ガス、東邦ガス、東京ガスの4社共同で低コストの水電解の技術開発を進められていることなどを紹介されました。

 

東邦ガス株式会社企画部長の金丸剛氏からは、「ガスの脱炭素化に向けた取組について」と題してご講演いただきました。金丸氏は、東邦ガスが、「e-methaneがガスの脱炭素化の一番の肝になる」と考える理由について、「基本的に海外の安い水素を活用し、そこでメタネーションをしてメタンを製造し、そこから海上輸送で国内に持ち込み、さらに導管でお客様にお届けするというところであるが、出荷の基地から海上輸送、国内のインフラ、お客様の消費機器すべてが現状のものが使えるので、社会的な負担をなるべく低くして、カーボンニュートラルに貢献できるということで、e-methaneを主軸に進めている」と紹介されました。e-methaneの社会実装に向けての課題については、「他の登壇者の方々も仰っているように、技術的な課題に加え、ルールの整備やコスト的な支援が私どもの課題というふうに認識している。これらの課題を一つずつ着実に解決していきたいと考えている」と話されました。

 

大阪ガス株式会社常務執行役員で企画部長の坂梨興氏からは、「都市ガスの低・脱炭素化に向けた取組」と題して、ご講演いただきました。大阪ガスでは、2050年に向けて複数の脱炭素エネルギー・ソリューションを提供し、豊かな暮らしとビジネスの発展への貢献を目指して、エネルギーの低・脱炭素化に取り組まれており、当日は熱エネルギー分野における取組を中心に紹介いただきました。坂梨氏は、「当社ではメタネーションの技術開発やサプライチェーンの構築に向けて、国内外のパートナー企業との連携や協議を進めている。しかし、e-methaneの導入に向けては、民間の取組だけでなく、政策による推進が不可欠と考えている。具体的には、事業予見性や経済性を確保しながら、水素やアンモニアといった脱炭素エネルギー間での公平な商用化の支援、日本のNDCにも貢献できるようe-methane利用時のCO₂排出をゼロとするルールの整備、e-methaneのさらなる利用拡大につながる証書制度や取引制度が必要と考えている」と紹介され、「このような民間企業による取組を政策によっても推進いただき、官民連携してe-methaneの社会実装を目指していきたいと考えている」と話されました。

※NDC(Nationally Determined Contribution)…「国が決定する貢献」と訳される。2015年12月採択、2016年11月に発効されたパリ協定で、全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出・更新することが義務づけられた。日本は2021年4月に、2030年度において温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明した。

 

嶺重教授からは、「兵庫県立大学における高効率メタネーションを目指した文理融合研究」と題した講演がありました。嶺重教授は、メタネーションの反応について大きく2つのポイントがあるとし、「1つは、投入するエネルギーが再生可能エネルギーだけであること、もう1つはCO₂を有効利用しているという2点が同時に行われていることが、メタネーションの素晴らしいところだと考えている」と述べ、CO₂の有効活用に向けた研究や、本学における取組の特徴として、本学の高度産業科学技術研究所が管理・運営する放射光施設「ニュースバル」を活用した研究を行っていることなどを紹介しました。講演の最後には、草薙教授との共同研究について取り上げ、「まさに文理融合ということを考えており、理系だけでこのような勉強をするのではなく、特に水素の研究については国内外の動向や政策提言、コストの視点、経済性の観点も欠かせないことから、文理一緒になって考えながら、われわれ理系の研究者としては、動力や熱エネルギーの部分について検討を行っている」とし、「メタネーションの技術というのは、将来のエネルギー構造において欠かせない技術で、われわれ1人ひとりに関係していることであり、将来的な発展を期待している。本学においては、現在、文理融合研究によって高効率なSOECメタネーションの技術を開発している」と述べました。

※SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell:固体酸化物水蒸気電解)…高温で作動する水の電気分解装置。高効率で水を電気分解して水素をつくることが可能。

 

第2部 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、福山大学経済学部長で教授の楠田昭二氏から、第1部での5名のパネリストの方々からの報告を受けてのコメントと質問がなされました。楠田教授は「メタネーションが導入された際に、熱需要やガス需要といった需要化の変化に対して、このメタネーションというものは一体どういうふうな利便性が今後期待できるのかというところに関心がある。『メタネーションになったから、こんなに便利な時代になった』と言える時代が早く来て欲しいと思っている。もう1つは、新しい経済活動の中で『光』のところで必要となるエネルギーが変わっていく中で、それには技術の関係者が大変付加価値の高い発明をしたことによって技術革新が起こっているのであり、技術の価値というものを過小評価してはいけないと、経済を勉強している者として改めて感じている」とコメントされました。また、草薙教授は「われわれの幸せの基となる電気やガスというものが、いかに大切なものであるかを噛み締めるべきだと思う」と述べました。

 

パネルディスカッション後には、本学の國井総一郎理事長から挨拶があり、「今日このシンポジウムでメタネーションの話を聞き、メタネーションに関する研究や取組がしっかり進んでいることが分かり、非常に心強く感じた。これからメタネーションの研究がもっと進み、ますます発展していくことを願っている」と挨拶しました。

 

最後に、政策科学研究所長の田中隆教授から閉会の挨拶がありました。田中教授は「『メタネーションがある未来』と題しての本日のシンポジウムは、これから本格化する脱炭素社会に向けて、その柱となりうるメタンを合成する技術について、専門家と実務家の先生方によるご講演とパネルディスカッションという二部構成でお送りした。メタネーションの技術が、脱炭素社会の柱に成長する未来のビジョンを少しでもみなさまに示すことができたならば、主催者として大変嬉しく思う」と挨拶し、本シンポジウムを結びました。

関連リンク

兵庫県立大学政策科学研究所

兵庫県立大学水素エネルギー共同研究センター

 

「脱炭素社会の『未来』を拓く『アンモニア』の可能性」をテーマに2022年11月22日に行われた2022年度第2回シンポジウムについて取り上げた際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン 兵庫県立大学政策科学研究所主催 2022年度第2回シンポジウム「脱炭素社会の『未来』を拓く『アンモニア』の可能性」を開催しました

 

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