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「革新的な画像AI技術を使って、判断が難しい骨盤骨折の診断性能を向上」 先端医療工学研究所が兵庫県立はりま姫路総合医療センターとの共同研究成果を発表

工学研究科教授で本学先端医療工学研究所の小橋昌司所長が、5月27日(月)に兵庫県中播磨県民センター(兵庫県姫路市)で行われた記者懇談会において、本研究所と兵庫県立はりま姫路総合医療センター(愛称:はり姫)との共同研究により開発した、X線画像を使用して骨盤骨折をより正確に検出するための新しい画像処理AI技術について発表しました。

右端が先端医療工学研究所 小橋昌司所長

 

医療従事者の方々とともに医療機器等を開発-先端医療工学研究所

先端医療工学研究所は、医療関連機器の研究開発や医産学連携によるイノベーション創出等を目的に、2022年4月に兵庫県立はりま姫路総合医療センター内に開設されました。臨床研究の実施にも重きを置く兵庫県立はりま姫路総合医療センターに渡り廊下1つで行き来できる環境にあり、医療現場の医師をはじめとした医療従事者の方々と本学の研究者との間で日常的に医療健康全般について情報交換しながら、より良い医療の向上を目指して、2者が一緒になって研究開発に取り組んでいます。

左:先端医療工学研究所がある教育研修棟 右:兵庫県立はりま姫路総合医療センター

 

骨粗しょう症を由来とした骨盤骨折の増加-研究の背景

今回、小橋所長が発表した技術を、本研究所と兵庫県立はりま姫路総合医療センターが共同開発を行った背景には、日本をはじめ、多くの国で進む超高齢社会において大きな問題となっている高齢者の骨粗しょう症を要因とした骨盤骨折の増加があります。
骨粗しょう症の高齢者は、骨が脆くなっていることから、転倒やしりもちによって骨折する可能性が高く、骨盤を骨折するケースが多いといわれています。しかし、骨盤骨折をしている可能性の高い高齢者が地域のかかりつけを受診した際に、「お腹が痛い」「腰が痛い」などと直接骨折とは関係がないような症状を訴えるケースが多いことや、X線画像(レントゲン画像)を撮影しても、骨盤の独特の形状や特徴から骨折箇所が明確に特定できないことがあるなど、2次元のX線画像からだけでは骨盤骨折を発見することの難しさが、早期診断における誤診の要因になっているといわれています。そして、骨盤骨折が見つけられなかった結果、その後症状が悪化して入院となり、そのまま寝たきりになるケースや、神経損傷や内出血などの重篤な合併症を引き起こして死に至るケースが発生するなど、骨盤骨折は高齢者の罹患率や死亡率を高める重大な健康問題となっています。

 

CTで「正確で、かつ大量のデータ」を生成-研究のポイント

こうした課題解決に向けて、本研究所と兵庫県立はりま姫路総合医療センターは、X線画像から、AIを用いて自動で骨盤骨折の検出をすることのできる技術の開発を進めてきました。それは、3次元CT画像から生成された高品質な学習データを用いて、骨盤X線の骨折診断性能を向上させる新しい深層学習法です。AIの学習には大量のデータが必要ですが、今回の研究で求められるデータは、「正しい答えを持っているもの」です。そこで本研究では、人体の輪切りの断面画像をあらゆる方向から取得することができるCT(Computed Tomography:コンピューター断層診断装置)を用いて、単純X線画像では表現できない描写などを取り込み、「答えとして正しいデータを大量につくった」といいます。CTもX線を使用して撮影しますが、3次元画像を撮るため、高精細な、非常に写りの良い画像をつくることが可能であり、また、CTは1度撮影すればコンピュータシミュレーション技術を用いて2次元的なX線画像を無数に生成することができるという特徴があります。

 

医師によって骨折が確認された画像を使用-研究過程と課題

本研究でのAI学習に使用されたCT画像は、骨盤関連の様々な診断で活用されているものが使われました。また、「骨折診断の対象となる1枚のX線画像に対する『AIが学習するための正解の答えとなる画像』」の準備においても、「この画像に写っている骨盤に、本当に骨折箇所があるのか」について、CTを用いて骨折を検出し、兵庫県立はりま姫路総合医療センターの医師らによって骨折が確認された画像を使用したといいます。このような過程を経て開発されたこの技術の精度について小橋所長は、「単純X線画像のみでは医師が見落とす可能性があるような骨折のケースも、本技術によって非常に高い精度で発見が可能なので、診断支援に有効と自負している」と力強く語ります。
併せて、課題についても言及し、「骨盤骨折をされている方が、がんや感染症など他の疾患を持たれている場合に、例えば、AIがその病気を本当はがんなのに骨折であると見間違えることがある。医師であればこのようなことはないが、こうしたケースも1つずつAIに教えないといけない。そういった意味で、骨折以外でどのような疾患があるときに骨折の検出レベルが落ちるのかを検証する必要がある」と説明しました。

 

骨盤骨折の早期発見を目指して-今後の展開

本技術の今後について、まずは複数の医療機関で臨床現場での有効性を評価する臨床試験を行うこととしています。小橋所長は、「医療機関で撮影されたX線画像を、このX線画像診断支援システムにかければ、初診の段階で発見しにくい骨盤骨折を見つけることができるというところを目指している。また、はり姫の医師の方々からは『姫路周辺は医師が少ない』と聞いている。兵庫県内には他にも医師が不足している地域があり、そうした地域でもこの技術が役に立てば良いなと思っている」とし、「この技術を実際の病院で使っていただくために、様々な病院や施設で評価していただいて、将来的には医療機器と承認されて、一緒に研究開発しているはり姫が位置する姫路市のみなさんをはじめ、兵庫県あるいは国内全体で使っていただけるようにできればと考えている」と話しました。
また、他の部位の骨折に関しても本件のような研究を広げていきたいとし、「今回われわれが骨盤をターゲットにしたのは、はり姫の医師の方々から『一番難しい部位からやろう』と言われたことにある。一番難しい部位から挑戦して、最終的には体全体でやっていければと考えている。こうしたAIの技術は、いろいろなところに応用できるので、『このような技術をもっといろいろな病気に活用していきたい』と、はり姫の院長と話している」と今後の展開について語りました。

 

なお、本研究の成果は、人工知能を用いた医用画像診断解析を専門とする小橋所長の研究室に所属する工学研究科博士後期課程3年生のラシェドーラ ラーマンさんが筆頭著者としてまとめた論文が今年の4月5日にネイチャー・リサーチ社の国際学術雑誌「Scientific reports」にオンライン掲載されました。(volume 14, article number: 8004, DOI: 10.1038/s41598-024-58810-4)
ラーマンさんはバングラデシュ出身で、兵庫県の他国の学生を受け入れるHUMAP奨学金制度(HUMAP:兵庫・アジア太平洋大学間ネットワーク)を利用して日本に留学し、本学に入学。今年の3月に博士後期課程を卒業し、現在は、先端医療工学研究所の非常勤の研究員として勤務しながら博士号取得に向けて博士論文を仕上げています。

ラシェドーラ ラーマンさん(左)と小橋所長

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