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「建築物の構造設計実務経験のある大学教員が考える耐震・制震・免震」 減災復興政策研究科 永野康行教授がひょうごラジオカレッジに出演しました

このたび、減災復興政策研究科長の永野康行教授が「ひょうごラジオカレッジ(兵庫県高齢者放送大学)」に出演し、7月15日(土)にラジオ関西で放送されました。

 

ひょうごラジオカレッジは「学び続ける人は輝いている」をキャッチフレーズに、公益財団法人兵庫県生きがい創造協会がラジオ放送を通じて生涯学習の場を提供する機会として実施しているもので、毎週土曜日の午前7時から30分間、各分野の著名な講師による講座が放送されています。自宅にいながらにして、こころ豊かな人生を過ごすために役立つ講座を聴講することができ、約1,500名の受講生が学ばれています。今回、永野教授は、ひょうごラジオカレッジの講座内で「減災復興学について」をテーマに、「構造設計実務者として耐震・制震・免震構造の建築物についてどのように考え、建築物の構造設計を実践してきたのかについて」「シミュレーション学について」「減災復興学とは災害前、被災、復興(復旧)を一体的に捉える学問体系であること」「これからのまちづくりの提言において、減災復興学の視点を持ち、まちづくりに活かすこと」の大きく4点について話をしました。

ひょうごラジオカレッジ 加古隆司学長と

 

二度と壊れることのない、復興のシンボルとなる神社を-耐震

永野教授が構造設計実務者として携わった耐震構造を持つ建築物の1つに、神戸市中央区に位置する生田神社があります。生田神社は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により拝殿や鳥居が倒壊するなどの大きな被害を受けました。当時、民間の建設会社で建築物の構造設計業務を実施していた永野教授は、地震発生から間もなく、生田神社の拝殿の再建に携わることになりました。このときの神社の宮司からの要望は、「二度とこのようなことは起こって欲しくない。新たに普請する拝殿を復興のシンボルにしたい。ぜひ『耐震神社』をつくって欲しい」というものであったといいます。そこで、拝殿には鋼管(鉄のパイプ)の中に非常に高強度のコンクリートを充填する鋼管コンクリート柱を採用。さらに、これらの柱を基礎と緊結することで、丈夫な構造にすることを一番の計画に挙げたといいます。加えて、鋼管コンクリート柱内には、当時の世界最高強度160N/mm²のコンクリートを充填することで、世界で最も高い耐震性能を持ち、阪神・淡路大震災と同じ震度7クラスの地震にも耐えうる神社が完成しました。

※緊結…緩みやズレが生じないよう、きつく締め付けたり、打ち付けたりして基礎と一体となるようにすること。

※N/mm²(ニュートンパースクエアミリ)…1 mm²(1平方ミリメートル)あたりに何N(ニュートン)の力が加わったのかを表す圧力の単位。通常の建築物には、21~24 N/mm²の強度を持つコンクリートが使用されている。

 

永野教授は、生田神社の拝殿再建にあたって、阪神・淡路大震災と同じ震度7クラスの地震が起こっても倒壊しない拝殿を設計するために、コンピューターで建物安全性検証(地震応答解析)のシミュレーションを実施しました。阪神・淡路大震災発生時、生田神社で地震記録はとられていませんでしたが、神社から北東へ約6km離れた場所に位置する神戸大学(神戸市灘区)では、地震発生時の揺れを観測していたことから、神戸大学で観測された地震の揺れを「基盤」にして、生田神社で作用したと推定される地震動を割り出し、シミュレーションを行いました。その結果、設計した拝殿は、阪神・淡路大震災クラスの地震が発生しても倒壊しないとの評価がなされたといいます。

拝殿の再建構造計画

 

守るべきものを守るために「わざと壊れる」-制震

また、建築物によっては、地震による揺れが起こった際に、意図的に「わざと壊れる」箇所として耐力の弱い部材を設けて設計されているものもあります。制震構造を呼ばれるもので、一般的にはブレース(筋交い)と呼ばれる部分を弱く設計しておき、大きな地震が発生した際にはそれらが潰れることで地震のエネルギーを吸収する仕組みになっており、耐震構造よりもグレードが高い耐震性を持っているといいます。「例えば、自動車が正面衝突するような事故が起こった際に、まずフロントガラスがクシャクシャと粉々に割れます。フロント部分が壊れることによって、衝突のエネルギーを音や振動のエネルギーに置き換えて自動車の中の人を守るという仕組みです。建築物も、『守るべきところは守り、壊れるべきところは壊す』という明確な思想でつくる。これが制震構造です」と永野教授は解説しました。

※ブレース(筋交い)…建物の構造を補強するために、柱と柱の間に斜めに入れる部材のこと。

 

建物と地面を切り離す-免震

さらに永野教授は、聴講生に向けて問いかけました。「地震のとき、なぜ建物は揺れるのでしょうか。台風のときに高層ビルが揺れるのは、強風や暴風が建物の横から当たっているからです。地震のときに揺れているのは建物ではなく、地面が揺れているのです。地面の揺れのことを地震動といいます。地面と建物が緊結されているので、地面が揺れると建物も揺れます。地震による揺れは、避けることのできない自然現象ですが、建物と地面を切り離すことができたらどうでしょうか。地面だけが揺れて、建物はほとんど揺れない。それを実現したものを『免震構造』といいます。基礎と建物の間に免震装置というものを入れると、地震によるエネルギーや揺れを吸収し、建物に揺れを伝わりにくくして衝撃を和らげてくれます。ところが、この免震構造を持つ建物は、世の中にはそんなに普及していません。通常の建物にはない免震装置をつけないといけないこと、また、深く地面を掘らないといけないことから、コストがかかります。地震のときにしか性能を発揮しないアイテムに対して、それだけのコストを払うのかという課題がある」と永野教授は話します。コストがかかるという課題がある一方で、性能が持つ費用対効果の大きさから免震構造を持つ建築物が近年増えつつあるといい、災害発生時に拠点となる市役所などの庁舎や、地震発生直後でもすぐに機能しなければならない病院や消防署といった建物も免震構造が採用されているといいます。

 

現実に起こっていることのように-シミュレーション

永野教授がこれまでに取り組んできた研究の1つに、地震発生後に人々が建物の中から避難する場面を想定したシミュレーションがあります。「避難訓練をされたことのある方は多いと思いますが、何の被害も受けていない中で訓練をしていても、リアリティはあまり感じられなかったのではないかと思います。シミュレーションの良さは、例えば、地震発生後の被害の様子を再現しておき、その中で人がどう逃げるのかというものを、マルチエージェントシミュレーションを使ってシミュレーションをします。『普段どおりに何もなければこの程度の時間で避難できますよ』というようなことや、天井が10%程度上から落ちてきたら避難がどれくらい遅れるのだろうかとか、10%と言っても、どこの場所の天井なのか様々な場所が想定されます。どのような状況のときに一番問題が起きるのかといったことも1,000通りくらいのシミュレーションのパターンをつくって調べていました」。

※マルチエージェントシミュレーション…Multi Agent Simulation(MAS)とは、自律的に行動する複数のエージェント(人や生物など)が相互に影響し合う環境をモデル化し、シミュレーションすること。

 

「事務所ビルのような建物をイメージしてみてください。このような建物の中にある部屋から避難口へ逃げようとすると、通常は、建築基準法では『二方向避難』といって、部屋から地上に通ずる直通階段がフロアの両端、2か所に設置されています。従って、どちらの階段の方へ逃げても良いわけですが、人間の心理としては、近い方に逃げようとします。このマルチエージェントシミュレーションでも、それぞれの人がどう動くのかというのを設定しますが、『近い入口に迂回する』のではなく、『一直線に動く』というようなシミュレーションをするわけです。避難階段の入口周辺はそう広くありませんので、非常に混雑します。ということは、上の階から引っ掛けているだけの、避難口の出入り口周辺の天井が落下してきて被害を受けていると、そこで避難時間が掛かってしまうことになる。そこで、私が提言したことは、通常の建物の天井の設計というものは、どの場所でも同じような吊り方で設計されているのですが、地震発生後の避難のことを考えると、『特に、避難階段の直近の天井の耐震性を増しておくことが非常に重要である』ということです」と永野教授はシミュレーションから得た知見を紹介しました。

事務室からの避難シミュレーション(例;在館者57人、人口密度0.125人/m2)

 

最後に永野教授は、減災復興政策研究科で学問分野として体系づける取組を進めている減災復興学について紹介し、「従来の学問体系というものは、縦割りで構築されています。今回、私がタイトルに挙げている減災復興学とは、『横ぐしで突き刺したように、俯瞰して上から全体像を見て、トータルを考えて、それぞれの部分を見る』という見方をするような、まさに『減災復興学的視点』をみなさんにお伝えすることが、今回の講座のメインの課題です。ぜひ、この減災復興学というものを、みなさんのフィールド、みなさんのご興味に置き換えてみてください。『置き換えにくいなぁ』という方は、関連するところをもう少し俯瞰的に、上の視点から見て、鋭利な部分にグッと突き刺してみてください。この減災復興学というものが、みなさんの日常生活の中で何かの一助となれば幸いです」と受講生に向けてメッセージを送りました。

 

減災復興学

「減災の総合化」という視点から、減災と復興を一体的に捉えて、安全で安心できる社会の持続的発展を目指すための学問体系

関連リンク

減災復興政策研究科

兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 永野研究室

ひょうごラジオカレッジ(公益財団法人兵庫県生きがい創造協会)

 

2022年6月に永野教授がラジオ関西「水曜ききもん」に出演し、防災・減災について取り上げた際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン「『減災復興学』を活用した新たなまちづくり」減災復興政策研究科 永野康行教授

 

2023年1月に永野教授が一般の方々向けて、建築物の耐震性を主なテーマとした公開講座を開講した際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン「1.17に、あらためて建築物の耐震性を考える」 減災復興政策研究科公開講座 令和4年度第2回減災復興サイエンスカフェを開催しました

 

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