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日本オペレーションズ・リサーチ学会2023年秋季研究発表会 永野康行教授による特別講演(招待講演)・加藤直樹教授による近藤賞受賞記念講演

9月14日(木)・15日(金)の2日間にわたり、関西学院大学西宮上ヶ原キャンパス(兵庫県西宮市)で行われた公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会主催の秋季研究発表会に、主に社会情報科学部及び情報科学研究科の教員・学生が参画しました。

日本オペレーションズ・リサーチ学会(以下日本OR学会)は、1957年に設立された学会で、オペレーションズ・リサーチ(以下OR)の理論の研究や手法の開発をはじめ、企業経営や行政における具体的な問題への手法の活用を図るとともに、学会会員相互の情報交換や海外との交流を積極的に推進しています。日本OR学会では、春と秋に研究発表会を開催しており、今回、社会情報科学部及び情報科学研究科の木庭淳教授が本研究発表会の実行委員長を務めました。そして、本研究発表会の1日目に減災復興政策研究科長の永野康行教授が、招待講演として行われた特別講演1に登壇し、2日目には、今年3月に日本OR学会「第9回近藤賞」を受賞した情報科学研究科長の加藤直樹教授が、近藤賞受賞記念講演に登壇しました。

 

特別講演1(招待講演)「『減災復興学』を活用した新たなまちづくり」

永野教授は、特別講演1において「『減災復興学』を活用した新たなまちづくり」と題して講演を行いました。「構造設計実務者として建物を設計する際に実践してきた新しい試みについて」「減災復興学とは何か」「これからのまちづくりにおける提言として、減災復興学の視点を持って建物の設計をどのようにしていくのか。また、安全で安心なまちづくりを目指すアプローチについて」の3点を軸にして講演を展開し、減災復興学、シミュレーション学、分野横断の3点を講演のキーワードに挙げました。

永野教授のプロフィールを紹介する社会情報科学部長で情報科学研究科の藤江哲也教授

 

はじめに永野教授は、大手建設会社で実務者として構造設計に携わった耐震構造、制震構造、免震構造の建物で、印象深く記憶に残っている建物を紹介しました。耐震構造の建物には、1995年に発生した阪神・淡路大震災で被災した生田神社(神戸市中央区)の拝殿を挙げ、再建する拝殿について「神戸の復興のシンボルとなるような『耐震神社』にして欲しい」との当時の宮司からの要望を実現するために、世界最高強度のコンクリートを充填した鋼管コンクリート柱を採用したことを紹介しました。制震構造の建物には、関西圏のテーマパークに隣接するホテルのビルを挙げ、ここでは地震による揺れのエネルギーを吸収する材料を採用したことや、世界初となる材料を使うことによって制震構造を導入したことを紹介しました。免震構造の建物には、当時の新しい免震技術を導入することによって、新しい次世代の構造免震住宅としたことを紹介しました。

 

続いて永野教授は、これまでに行ったシミュレーションに関する研究について紹介しました。その中で、2009年に埼玉大学教育学部の高須賀昌志教授から、芸術祭「神戸ビエンナーレ2009」(開催地:神戸市中央区)に出展される作品の制作時に「開催地の神戸が『靴のまち』であるので、ヒール(靴)を模したゲート『Red heels』をつくりたいが、実際に制作するにはどうしたら良いか」との相談があったことを取り上げました。永野教授は、まずは手計算によって、使用する材料や構造について検討を行いました。最終的にコンピューターを使ったシミュレーションで計算した際には、芸術祭の開催時期が台風シーズンであることを考慮し、台風による転倒防止の条件を計算に反映させ、構造物には転倒防止のためのワイヤーを数カ所設けて作品を制作することを提言しました。その結果、芸術祭の3日目に台風が名古屋に上陸し、開催地の神戸も影響を受けた中で、Red heelsは転倒することなく、最終日まで展示することができ、永野教授は構造設計を行う際のシミュレーションによる計算の重要性を再認識したといいます。その後、高須賀教授から「『芸術作品というものは、見栄えが大事だが、非常時のことを考えて作品を制作することが大事である』ということを環境芸術学会で発表して欲しい」との依頼を受け、環境芸術学会で発表したことを紹介しました。併せて永野教授は、減災復興学と関連するシミュレーションの研究の中から、南あわじ市における津波シミュレーションに関する研究を紹介しました。近年発生すると予想されている南海トラフ地震を見据え、自治体と協力して現地調査を実施し、地震発生時の災害要援護者の避難時間及び経路に関するシミュレーションを行い、算出された結果を防災計画に反映したことを紹介しました。

ゲートアート「Red heels」のシミュレーション(左)と会場に設置された作品

 

最後に永野教授は、減災復興学について「減災復興学とは、減災の総合化という視点から、減災から復興を一体的に捉えて、安全で安心な社会の持続的発展を目指す学問体系である。減災の総合化とは、災害の発生前後の全体を俯瞰的に見て、『自分の立ち位置はどうだったら良いのか』という視点で取り組んでいる防災・減災に関する学問である」と紹介し、講演を結びました。

 

近藤賞受賞記念講演「組合せ最適化と計算幾何学の研究を振り返って」

2日目に行われた本講演で、加藤教授は「組合せ最適化と計算幾何学の研究を振り返って」と題して講演を行いました。

加藤教授のプロフィールを紹介する社会情報科学部及び情報科学研究科の東川雄哉准教授

 

はじめに加藤教授は、学生時代から現在に至るまで自身がどのような研究をどのように進めてきたのかについて、時系列で紹介しました。学生時代に在学していた京都大学工学部数理工学科では、最適化手法の基本的方法やアルゴリズムについて学び、ここでは「最新の論文を読んで、新しい問題に取り組む」というスタイルで学びを深めていったといい、特に「抽象的な理論問題や数学的構造を理解して、アルゴリズムを開発する」という方法が当時の加藤教授の研究の主体であったといいます。1997年から2015年に在籍していた京都大学大学院工学研究科建築学専攻では、「最初は、建築学の分野で何を研究すれば良いのかよく分からず、違和感があった。どういうふうに研究を進めるべきかというのは、いろいろ試行錯誤しながら考えてきたところがある。しかし、『この分野において、自身がどういうことをやるべきか』ということは、同じところに5年、6年もいると、だんだん分かってくるものである。最初は、これまでに学んできた理論的な最適化手法というものを、建築学の分野に応用するという研究をしたが、やはり、それよりももっと『建築学で必要とされ、重要とされる研究課題とは何か』ということを捉えて、そこから現れる認めるべき課題、領域を中心に掘り下げて、全く新しい研究をする訳ではないが、すでに知っているいろいろな手法を使ったり、新たに手法を開発するという方向で研究を進めていった」と自身の研究テーマの見つけ方や研究の進め方などを紹介しました。

また、これまでに加藤教授が取り組んできた研究テーマや学位論文、他の研究者の方との共同研究の紹介では、それぞれの研究を行っていた当時の様子が分かるような写真を示しながら思い出のエピソードとともに紹介し、参加者から笑いが起こるなど、会場は盛り上がりを見せました。その中で、1981年から1997年に在籍していた本学の前身である神戸商科大学商経学部管理科学科において、1988年頃に当時の学生が卒業論文の研究として行っていた研究「団体戦の最適出場順序に関する数理的考察」では、実際に研究が行われていた頃から20年近く経った2012年に日本OR学会の機関誌「オペレーションズ・リサーチ誌」の当時の編集長から「本研究に関する論文を書いてほしい」と依頼があり、新たに論文を執筆したところ喜ばれたことや、自治体の警察とともに行った共同研究「空間的因子から見た自動車関連犯罪の発生危険場所の可視化」では、新しい知見が得られたことなどを紹介しました。「組合せ剛性理論」に関する問題の紹介では、加藤教授の研究室に所属している大学院生と会場内の参加者が実演を行う場面もありました。講演の最後に、学部設立に携わり、現在所属している本学の社会情報科学部について取り上げ、学部紹介や社会情報科学部の1年生と2年生を対象に実施している課題解決型演習「PBL演習」の授業内容などを紹介しました。

講演後に行われた質疑応答で加藤教授はORの重要性について言及し、「『オペレーションズ・リサーチ』という言葉の意味を、ORを専門にしていない人やORを知らない人に説明するのが難しい。ORの重要性を理解してもらうには、どうしたら良いのかということは、これからORの未来を担う若い人たちが考えるべきことではなく、われわれが考えることであると思うが、これは非常に重要なことと思う。特に今はデータサイエンス、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の時代であり、今後を担う世代の人たちにとってORは重要なものではないかという気がしている。われわれの学会の発展のために、ORをより多くの人に知ってもらい、理解してもらえるような何か良い方法や考え方があれば、ぜひ教えていただきたい」と話し、講演を結びました。

 

会期中、会場ではこれらの講演のほかに一般講演が行われ、社会情報科学部及び情報科学研究科の円谷友英教授や情報科学研究科の大学院生が発表を行いました。

関連リンク

社会情報科学部

情報科学研究科

加藤直樹研究室

減災復興政策科学研究科

兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 永野研究室

日本オペレーションズ・リサーチ学会2023年秋季研究発表会&シンポジウム

 

2023年3月に加藤教授が日本OR学会「第9回近藤賞」を受賞した際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン「情報科学研究科 加藤直樹教授が日本オペレーションズ・リサーチ学会『第9回近藤賞』を受賞しました」

 

2022年6月に永野教授がラジオ関西「水曜ききもん」に出演し、減災復興学について取り上げた際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン「『減災復興学』を活用した新たなまちづくり」減災復興政策研究科 永野康行教授

 

2023年6月に永野教授がラジオ番組「ひょうごラジオカレッジ」に出演し、建築物の耐震・制震・免震とシミュレーションについて取り上げた際の記事を、下記のリンク先からご覧になれます。

ケンダイツウシン「『建築物の構造設計実務経験のある大学教員が考える耐震・制震・免震』 減災復興政策研究科 永野康行教授がひょうごラジオカレッジに出演しました」

 

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